労働者に定期健康診断を受けさせるのは企業の義務だがメリットも大きい

厚生労働省は労働者を雇用する企業などに「健康診断を実施しましょう」と強く呼びかけています(*1)。

なぜなら企業が従業員に健康診断を受けさせるのは法律上の義務だからです。

この記事では働く人向けの健康診断の法的根拠などを示しながら、これがどのような制度なのか解説します。

そして、企業の経営者と健康診断業務を担当する人事担当者などはぜひ「健康診断は会社に大きなメリットをもたらす」と考えてください。そのような意味では健康診断には福利厚生や投資の要素もあります。

「義務だからやる」健康診断ではなく、「企業も従業員も幸せにする」健康診断に変えていきましょう。

*1:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000103900.pdf

なぜ義務なのか:労働安全衛生法で決められているから

健康診断の義務を企業に課しているのは労働安全衛生法です(*2)。

企業などの労働者を雇用する事業者は、1)労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、2)快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保して、さらに、3)国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力しなければなりません。

労働者の健康を確保するには健康診断が必要になるので、同法66条で次のように定めています。

労働安全衛生法第66条

事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行わなければならない

*2:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347AC0000000057

費用は企業が負担しなければならない、労働者は受けなければならない

健康診断は医療行為になるので、それなりに費用がかかります。企業はそのコストも負担しなければなりません(*3)。

また企業による健康診断は治療ではないので、公的医療保険は使えません。

企業の従業員は無料で健康診断を受けることができます。ただこのことは「受けても受けなくてもよい」ということを意味しません。労働安全衛生法には「労働者は健康診断を受けなければならない」と定められています。

*3:https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/faq/1.html

「雇い入れ時の健康診断」と「定期健康診断」の違い

健康診断の具体的な内容は検査と考えてよいでしょう。したがって医療行為といっても、健康診断は治療ではありません。

では何のために検査を行うのか。それは健康そうにみえる人に隠れている病気や病気の兆候をみつけるためです。

お腹が痛くなって病院に行っても検査をしますが、この検査は病気を特定するための検査になります。一方、健康診断の検査は、しっかり働けるほど健康な人や健康にみえる人に対して行います。

そして健康診断にはいくつか種類があり、ここでは「雇い入れ時の健康診断」と「定期健康診断」について紹介します。

健康診断の検査項目

健康診断で行う検査は以下のとおりです(*4)。

■健康診断の検査項目

●既往歴と業務歴の調査

●自覚症状及び他覚症状の有無の検査

●身長、体重、腹囲、視力、聴力の検査

●胸部エックス線検査、喀痰検査

●血圧の測定

●貧血検査(血色素量及び赤血球数)

●肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)

● 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)

●血糖検査

●尿検査(尿中の糖、蛋白の有無の検査)

●心電図検査*4:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000194701.pdf

入社するときと年1回

企業は労働者を雇い入れるとき、つまり従業員が企業に入社するときに健康診断を実施しなければならず、これを雇い入れ時の健康診断といいます。

そして労働者を入社させたあとは毎年1回、定期健康診断を受けさせなければなりません。

その他にも、厳しい労働環境で働く人向けの特定業務従事者の健康診断や、海外に赴任する人向けの海外派遣労働者の健康診断などがあります(*1)。

実施したあとも大切

企業は「健康診断を受けさせたらそれで終わり」ではありません。健康診断の実施後も重要な仕事が残っており、それは次のとおりです。

■健康診断後に企業が行わなければならないこと

●健康診断の結果の記録健康診断の結果は、健康診断個人票を作成して保存しなければなりません ●健康診断の結果について医師から意見を聴く健康診断で異常がみつかった労働者については、必要な措置について医師の意見を聞かなければなりません ●健康診断実施後の措置医師の意見を聴き、必要があるときは、作業の転換や労働時間の短縮などの措置を取らなければなりません ●健康診断の結果を労働者に通知する健康診断の結果は労働者に通知しなければなりません ●健康診断の結果に基づく保健指導健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要がある労働者には、医師や保健師による保健指導を行うよう努めなければなりません ●健康診断の結果の所轄労働基準監督署長への報告健康診断の結果は労働基準監督署長に提出しなければなりません

健康診断によって健康状態だけでなく不健康状態もわかるので、企業はそれに対して適切に措置しなければなりません。

もし現在の働き方が健康を害しているのであれば、別の部署に異動させたり、労働時間を減らしたりすることにもなります。

そして健康診断の検査の数値が悪ければ、放置してはいけません。これは努力義務になるのですが、企業は数値が悪かった労働者に、医師などによる保健指導を受けさせなければなりません。異常がみつかったら健康を取り戻す取り組みにも着手しなければならないということです。

さらに、健康診断の実施は企業に課された義務なので、行政機関である労働基準監督署が管理しています。従業員50名以上の事業所は健康診断の結果を同労基署に報告してください。

健康診断は福利厚生といえる「労働者から選ばれる企業になるために」

健康診断の費用は企業の「持ち出し」になります。そのため、その費用をコストと考える経営者もいると思います。

しかし「コスト」という言葉にはどうしても「できれば負担したくない費用」というニュアンスが含まれてしまいます。そこで健康診断の費用を「投資」と考えてみてはいかがでしょうか。企業は従業員に福利厚生を提供していますが、これは気持よく働いてもらうための「投資」といえます。健康診断も福利厚生と考えることができます。

なぜ福利厚生・投資といえるのか「利益になるから」

経済産業省は、企業による従業員の健康管理を健康経営と呼んでいます(*5)。

健康経営とは、従業員の健康が経営に直結するという考え方です。同省は、従業員の健康は、従業員と組織と業績と生産性の向上を企業にもたらす、としています。

この考え方は合理的であり、当然のことともいえます。働く従業員が元気だからこそパフォーマンスが上がり、高いパフォーマンスの人が多くいる会社ほど業績が良くなるはずです。

業績と生産性の向上は、企業の最大の利益のはずです。この2つを高められなくて苦労している企業は少なくないはず。従業員の健康を増やせば、その2つは広がります。

健康管理や健康診断にかかる費用を負担すれば大きな利益を得ることができるので、投資といえるわけです。

*5:https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenko_keiei.html

まとめ~人材確保にもなる「選ばれる企業へ」

企業のなかには、健康診断よりはるかに高度な検査である人間ドックを、自社の費用負担で従業員に受けさせているところもあります。

人間ドックの費用は健康診断の費用を上回ります。しかし自社が費用負担をすることで「社員に優しい企業」というイメージを獲得することができます。

多くの企業は人手不足に悩み、ほとんどの企業は優秀な人材を渇望しているはずです。働く人や優秀な人から選ばれる企業になるためには、健康管理や健康診断をしっかり実施する必要があるでしょう。

参考

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000103900.pdf

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/faq/1.html

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347AC0000000057

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000194701.pdf

https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenko_keiei.html

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