休職とは、企業などの労働者が仕事をしない状態のことですが、普通の休日ではありません。
そして、休日には法律上のルールがありますが、休職について定めた法律はありません。
さらに休職にはいくつか種類があります。
休職はこのように、複雑で少しあいまいなルールで運用されています。そのため労使間で(企業と労働者の間で)休職を巡ってトラブルになることもあります(*1)。
企業の経営者や総務担当者は、休職の知識をしっかり持っておき、社内でルールをつくっておいたほうがよいでしょう。
この記事では、休職がどのような制度なのかを解説したうえで、普通の休日との違いや、給与の取り扱い、さらに傷病手当金について紹介します。
*1:https://www.jil.go.jp/hanrei/conts/06/55.html
休職とは:働けないときに労務を免除するルール
独立行政法人中小企業基盤整備機構は休職を次のように定義しています(*1)。
■休職の定義
●労働者が労務提供できない状態に陥り、企業などの事業者がその労働者に対し、労働契約を継続したまま労務提供を免除、または拒否すること
●法律に具体的な規定はない
●個々の企業において就業規則などのなかで制度を定めているのが一般的
休職とは働けない(労務提供できない)状態のことで、その原因は原則、労働者側にあります。
また休職は退職ではない状態なので労働契約は存在しています。つまり雇用された状態は継続します。
そして休職は、企業が労務を免除したり、労務の提供を拒否したりすることで発生します。
さらに休職には、そのルール(制度)が法律ではなく、就業規則などで規定されるという性質があります。
就業規則は企業が作成して、労働者の代表が確認して意見を述べ、労働基準監督署に提出して確定するので、法律上のルールとみなすこともできます。
しかし休職のルールはあくまで「就業規則などで定めるのが一般的」なのであって、必ず就業規則のなかで休業のルールを定めなければならない、というわけではありません(*2)。
それで休職のルールは法律で規定されていない、と解釈されています。
ただ、休職のルールを確定しておくことは労使ともにメリットがあるので、企業は労働者が1)働けなくなったときに、2)労務を免除する仕組みを、3)就業規則で定めておいたほうがよいでしょう。
*1:https://j-net21.smrj.go.jp/startup/manual/list8/8-2-20.html
*2:https://j-net21.smrj.go.jp/qa/hr/Q0174.html
退職しないときや退職させられないときや解雇できないときに休職を使う
労働者が働けなくなり、労働者が自主的に退職すれば休職制度を使う必要はありません。そのため休職は、働けない労働者が退職しないときに用いるルールということができます。
企業の過失などで労働者が働けなくなった場合、企業はその労働者を退職させることができないので休職制度を使うことができます。
さらに、日本の法律は企業の解雇権を強く制限しているので、つまり企業は労働者を解雇しにくいので、その代わりに休職制度を使うこともあります。
普通の休日や休憩と何が違うのか
労働者が働かない・働けない(労務提供しない)状態は、休日や休憩でも発生します。
「休日と休憩」は休職と異なり、労働基準法で規定されています(*3)。
企業は労働者に、毎週少なくとも1日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。
労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなければなりません。
*3:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049
給与(賃金)のある・なしとノーワーク・ノーペイの原則
休日と休憩では、企業は労働者に賃金(給与)を支払う必要はありません。これはノーワーク・ノーペイの原則といい「働いていなければ支払わなくてよい」という意味です。
ノーワーク・ノーペイの原則は休職も同じなのですが、休職のルールは企業が決めることができるので、休職中に給与を支払うこともできます。
そのため、休職中の労働者に給与を支払う企業と支払わない企業が存在することになります。
そこで企業は労働者が誤解しないように、休職中の給与について就業規則に「支払う」または「支払わない」と明記しておいたほうがよいでしょう。
もちろん休日中や休憩時間に賃金を支払うこともできますが、こちらは原則支払わないという認識が定着しているので、企業がわざわざ「休日中や休憩時間に賃金を支払わない」というルールを定める必要はないでしょう。
給与(賃金)については後段でまた解説します。
休職の種類
休職制度は企業が自由に設定してよいのですが、多くの企業が採用している休職制度があるので紹介します。
なお休職中の給与(賃金)についてはここでは触れず、次の章で解説します。
療養休職
療養休職は「休職といえば」というほど代表的な休職です。病気やけがなどで療養が必要になって会社を休むことは、まさに労働者に原因があって働けなくなって、企業が労務の提供を免除する形態です。
療養休職を制度化するときに注意したいのは休む期間です。例えば、風邪で2、3日休むくらいであればわざわざ休職制度を使う必要はないでしょう。
例えば休職期間を「1カ月以上、1年未満」といったように定めることができます。つまり、1カ月以上の療養が必要な場合は療養休職制度を使えるようにする、といったように決めます。
そして休職期間に上限(例えば1年未満)を定めるのは、その期間をすぎたら退職とする、というルールにするためです。
休職は働けない労働者を会社に在籍させることになるので、復職の見込みが立たない場合はいつか退職する(させる)必要が出てきてしまいます。それで休職期間の上限が必要になります。
出向休職
出向とは、労働者を、在籍している会社から別の会社に移し、そこで仕事をさせる形態のことです。出向している間は在籍している会社では労務を提供しないので休職扱いにする必要があります。もちろん出向先の会社(現に働いている会社)では休職にはなりません。
刑事休職
刑事休職は、労働者が刑事事件によって逮捕、勾留などされて働けなくなったり、働くことが不適当と認められたりしたときに使います。
仮に労働者が犯罪の容疑者として逮捕されたとしても、その時点では罪が確定していないのですぐに解雇できないことがあります。
その状態で労働者が退職しなければ、刑事休職を取るわけです。
公職休職
公職とは政治家や公的な委員会の委員などのことです。
企業の社員が公職に就くとき、企業がそれを許せば会社を休職させて、つまり会社に在籍させたまま公職として働いてもらうことができます。これが公職休職です。
特別休職
上記の理由以外で休職が必要になったときのために、特別休職という名称の休職制度を設置することもできます。
「特別な事情があり会社が認めたときに休職扱いとする」といったように定めます。
休職中の給与はどうなるのか
休職中の給与は労使間のトラブルになりやすいので、具体的に「こういう場合はいくら支払う」「こういう場合は払わない」といったように決めておいたほうがよいでしょう。
企業が独断で「ノーワーク・ノーペイの原則があるので休職中は給与を支払わない」と決めても違法ではないのですが、労使関係がギクシャクするかもしれません。
療養休職では、会社の業務が原因で病気が発症した場合と、業務と関係ない原因で病気が発症した場合で「区別するのか」それとも「区別しないのか」を決めておいたほうがよいと思います。
なぜなら、例えば上司のパワハラで心の病気を発症した場合、会社の業務が原因といえるので、労働者としては「休職中も給与は支払うべきだ」と感じるはずだからです。
その一方で、労働者が、がんを発症して働けなくなった場合、その原因を特定するのは簡単ではありません。
いろいろなケースを考慮して「この場合はこうする」と決めておくと、トラブルを回避できます。
また出向休職では、出向先の会社の給与水準が、在籍している会社(出向元の会社)の給与水準より低い場合、出向元の会社の給与をゼロにして、出向先の会社から給与を支払うようにすると、出向者の収入が減ってしまいます。
そのため、出向先の会社で給与が減ったら、その分を出向元の会社が補填(ほてん)するというルールにすることができます。
こうしたルールがあるだけで、出向者は安心して働くことができます。
復職と通算
休職は復職することを前提に休む制度、ということができます。しかし労働者の状態などによっては復職の見込みが立たないことも起こりえます。
そこで休職のルールを決めるときは、あわせて復職の条件や、復職せずそのまま退職する条件などを決めておいたほうがよいでしょう。
企業のなかには、就業規則のなかで「休職期間を満了しても復職できない場合は退職事由に該当する」と定めるところもあります。
そしてもう1つ重要なのが通算をする、しないかです。
例えば、ある病気で1カ月休職して、状態が改善したものの再び悪化して2カ月休職したとき、「1カ月休職と2カ月休職が1回ずつ発生した」とするのか「通算3カ月休職した」とするのか決めておかなければなりません。
通算するかしないかは、休職期間に影響するので重要なルールといえます。
通算については就業規則で次のように定めることができます。
■通算に関するルールの例(*1)
休職後、病状が一時回復して出勤したが、出勤日数が○カ月に満たないうちに、同一または類似の理由により休職となる場合、または欠勤する場合は、その時点から再度休職とし、休職期間については前の休職期間と通算する
傷病手当金とは
傷病手当金は全国健康保険協会(以下、協会けんぽ)などの制度で、病気やけがなどで休業したとき、会社から十分な報酬が得られないときに支給されます(*4)。
協会けんぽの傷病手当金のルールは以下のとおり。
■協会けんぽの傷病手当金
●被保険者(労働者)が病気やけがで働けず、会社を3日連続して休んだとき、4日目以降、休んだ日に対して支給される
●1日の額は原則「標準報酬月額÷30日×(2/3)」。つまり給与の大体3分の2
●休んだ期間について、会社から傷病手当金より多い額の報酬が支払われたときは、傷病手当金は支給されない
*4:https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3170/sbb31710/1950-271/
まとめ~機微に触れることだけに明記する
出向休職などを除くと、休職とは、働きたいのに働いてもらいたいのに働けない状態に陥ることであり、これは労働者も企業も望まない状態です。
そのため休職のルールづくりは機微に触れることになるはずです。
例えば、療養休職の期間を半年と決めると、「長年会社のために尽くしてきたのに、病気で半年間職場を離脱しただけで追い出されてしまうのか」と感じる人がいるかもしれません。
だからといって休職のルールを拡大しすぎると、企業の負担が大きくなってしまうかもしれません。
休職のルールは労使間でしっかり話し合って、就業規則にしっかり記載したほうがよいでしょう。
参考にしたサイトのURL
https://j-net21.smrj.go.jp/qa/hr/Q0174.html
https://j-net21.smrj.go.jp/startup/manual/list8/8-2-20.html